Story3『不機嫌な蕾』

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《 今日出張で東京行きます。ヒマな人、楽しい夜を過ごそう!》

行きの新幹線の中でそう書き込んで、オレはスマホをビジネスバッグに放り込んだ。

出会い系サイトのアダルト用の掲示板。ワンナイトとか割り切りとかにチェックを入れてあるメッセージ。

あとは放置。よさそうなリアクションがあれば連絡して、仕事終わりに会おうと思う。

アダルト専用の書き込みだからな。それなりの反応ならあるはずだ。援交狙いの小娘とか、SEX依存症の肉食系女子とか、暇と体を持て余した主婦とか…? 東京とはそーゆー街だ。

こっちも同じで、相手なんか誰だっていい。オレはただ、愛なんて幻想を纏わない無責任なSEXができればそれでよかった。

月1で訪れる東京。その出張の夜に、出会い系サイトで知り合った女の子と一夜を共にする。3ヶ月前からそれがオレの定番となった。

「おっ、マジか」

商用が済んでサイトをチェックすると、数件のメッセージが残されていた。その中に《 女子大生です 》ってのがある。

《 実は私、まだイッたことがないので教えてくださいませんか? 》と書かれてあった。

おー…。

相手なんか誰でもいーとか言ってたくせに、かなりテンションが上がった。さっそく相手のプロフィールを確かめると…、写真はない。自称女子大生というからには若いんだろうな、きっと。

《 連絡ありがとう。今から夕飯一緒にどうですか?》

なんて返信して待つ。それからサイトのメール機能で何度かやり取りをして、オレらは落ち合う場所を決めた。

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「えっと、キミが草子ちゃんかな?」

「はい」

待ち合わせのカフェレストランに現れた女の子は、確かに若くて女子大生風だった。

し、しかし、なんていうか化粧っけがなくて目つきが鋭い。思い描いたキャピキャピした雰囲気など微塵もなく、彼女は眉をひそめてオレを見定めるように目だけを動かした。

「私が相手じゃ不服でしたら帰ってもらってもいいですよ。男性に好かれる容姿でないことは、自分でよくわかってますし」

不機嫌そうにそんなことを告げてきて、何だかとりつくしまがない。

「いや、光栄ですよ。現役の女子大生と友達になれて」

思わずそう言ったら、フンと鼻で笑われた。

「別に友達にはなっていませんから」

む。確かに…。

お互いの下の名前だけはさっきのメールで教え合ったから、あとは食事をしながら距離をつめるか。

彼女が何でもいいと言うので、少しお洒落な洋風居酒屋へ行き、その店のおすすめメニューを数皿注文した。年齢を訊くと、まだ19歳だってことだから、とりあえずジンジャエールで乾杯。

「草子ちゃんの大学ってどこ?」

まずは挨拶程度の気持ちで、そんな話題を振ってみる。

「東京です」

「じゃなくて、学校名は?」

「東京大学です」

「ああ、東大か、……って、と、東大っ?」

ブッと、オレが飲み込みかけたジンジャエールを吹き出したから、草子ちゃんは露骨にイヤな顔をした。

「す、凄いね、東大生なの?」

慌てておしぼりでテーブルを拭きながら訊いてみる。

「それが何か?」

「いや、頭いいんだなと思って」

「多少勉強が出来たとしてもSEXのほうは不出来です。だからこうして貴方と会っているんです。確認しますけど、今夜はイカせていただけるんですよね?」

なんて凄いことをまともに訊かれ、オレはもう一度口に含んだばかりのジンジャエールにむせ返った。

「ブッ、ゲホッ、それ、マジで言ってたの?」

オレの反応に、彼女のしかめっ面はさらに険しくなる。

「マジでなければ何なんですか? 浩平さんは私をイカせる自信があるから誘ってくれたんですよね?」

さっき教えたオレの名を、彼女は初めて口にした。

「えっ、いや、あれは男を釣る誘い文句なのかと…」

もそもそと、オレがそう答えると、彼女は呆れたように溜息をついた。

「まぁいいです。プロフィールを拝見しましたけど、34歳の妻帯者ならそれなりに経験も積んでらっしゃるだろうし、SEXだってお上手ですよね?」

なんて決めつけてくる。

「オレ…あんまし自信ないかも。SEXなんか他人と比べたことねーし、テクニックとか特にないもん」

「は?」

「あー、でもまぁ、そーゆーことなら精一杯がんばってみるけど…」

オレがそう言うと、草子ちゃんは切れ長の目をちょっとだけ丸くした。

「変わった方ですね、浩平さんって」

は? か、変わってんのはそっちだ、絶対に…!

「他の男性は私がイッたことがないって言うと、『それは今までの男が下手だったんだ』って必ずそう言います。『今日は僕がイカせてあげるからねって』」

「えっと、他の男性って?」

「半年つきあった彼と別れた後に、こうして出会い系でお世話になった方々です。浩平さんでちょうど10人目になります」

「えっ、そんなに?」

「ええ」

「えっ、で、まだ?」

「ええ、皆さん豪語するわりに自分だけお逝きになって…」

まだイッたことがないらしい。

「きっと私がダメなんだと思います。少しは感じるんですが途中で冷めてしまって…。不感症なら早く専門医に相談したほうがいいのではと思い、こうして確認させていただいている次第です」

「はぁ…。いや、19歳なら普通なんじゃないのか? 気にし過ぎだろ」

そう言ってみても、彼女は頑として譲らない。

「でも私、イッてみたいんです! それくらい淫らになりきれないと、相手の方を満足させることはできないと思うんです」

「そうかな? みんな満足してイッちゃったんだろ?」

「では、そこらへんも含めて診断してください」

なんて草子ちゃんはキッパリと言い、オレにヒョコンと頭を下げた。

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まぁそんなわけで二人でホテルに来た。

予定ではラブホテルで事を済ませて別れるつもりだったんだけど、もうなんか面倒臭くなって、会社が予約してくれたビジネスホテルへ持ち帰った。長期戦になるかもしれないし…。

「浩平さんって本名だったんですね」

部屋に入るといきなり彼女は言った。

「永田浩平さんっていうんですね」

なんてオレの名刺をひらひらさせている。

「えっ、いつ渡したっけ、それ」

「ガード甘いですよ。さっきレストランでスーツのジャケット置いたままトイレに行かれたでしょ? そのときにこっそり頂いちゃいました」

え。

「こっちは体を任せるわけですから、できれば素性とか知っておきたいですし」

オレの顔色が変わったんだと思う。彼女は言い訳のようにそう付け加えた。

「…名刺が欲しいんなら、そう言えよ」

思ったより低い声が出る。

「やだ、怒っちゃったんですか?」

「他人のポケットを探るような真似すんな。ルール違反だろ」

なんかカチンときたんだ。変わった子だけど、それなりにリスク背負って、体張って、不器用に生きてんだろうと思ったのに。

「フ…。奥さんがいるくせに平気で浮気するような人に、ルール違反とか言われたくありません」

オレの言葉に向こうもカチンときたのか、人を小バカにするような顔つきで正論を放ってきた。

「さっきのお店で貴方カード切ってましたよね? こちらのホテルは社用で利用するホテルですか? 言っときますけど名刺なんかなくたって、貴方の素性ぐらい簡単に調べられます。もし私が悪い人間なら、奥さんや会社にバラすぞってゆすられてますよ。私が善人でラッキーだったと思ってください」

ぺらぺらと捲くし立てる彼女の細い首を、オレは片手でクイと掴んだ。

「言っとくけど、オレが悪いやつなら、お前殺されてるからな。よくあるだろ、そーゆー事件」

力を入れている訳でもないのに、草子ちゃんの顔が蒼白になっていく。

バカ、やり過ぎだ。

すぐに手を放したけれど、彼女は少し咳込み、それから下を向いてしまった。

「ゴメン、悪かった…。今日は帰りな、まだ電車あるし」

そう声をかけたけれど、彼女はじっと俯いたまま立ち尽くしていた。

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